ブルガリアンローズが精油に生まれ変わるまで

<目次>

●世界一のバラを育む「バラの谷」
●ブルガリアンローズの収穫
●バラの生花が精油になるまで
●精油をつくる・水蒸気蒸留法とは
●精油をつくる・溶剤抽出法とは
●ローズオイルの品質鑑定と出荷まで

●世界一のバラを育む「バラの谷」●

鹿児島~モロッコまで、東西広く世界各地で栽培されるダマスクローズ。中でも最高品質と謳われるブルガリア産は、2つの山脈の間にあるカザンラクから生まれます。

「神様の国」と呼ばれ、水と緑の豊かな自然に恵まれたブルガリアの中でも、
山脈の谷間にある「バラの谷」と呼ばれる一帯の美しさは格別。
そこでは古くからバラの栽培が産業として栄え、「バラの谷」の中心にある
ブルガリア中部のカザンリク市は「蒸留釜のある場所」が地名の由来になっているとおり、
世界一と称えられるブルガリアンローズの精油づくりを支えています。

ブルガリアのバラの谷は、ダマスクローズの原産国であるシリアよりも栽培に適しているそうです。
※ブルガリアンローズは品種名ではなくブルガリア産のダマスクローズを指します。

気候条件(冬の寒さや開花時期の降雨など)と、
地質的条件(適度な水分を保ち栄養を保てるなど)にまれることで、
良質なブルガリアンローズの栽培が叶っているとのこと。

特に5月~6月にかけての開花時期に毎日のように雨が降ることがポイント。
紫外線量が抑えられることは精油の質と収穫量に大きく影響するそうです。
湿度の高さが精油成分の蒸発を抑え、紫外線量が少ないほど
花が自分の身を守るために出す天然のロウ成分が少なくなります。
(逆にたくさん日光に当たった花はロウ成分が多く、
精油の中に含まれる香気成分の割合が下がってしまいます。)

●ブルガリアンローズの収穫●

毎年5月が収穫期。精油成分が揮発しないよう、明け方から村人総出で花を摘み取ります。一つ一つ摘み頃の花を選ぶため、全て手摘み。収穫期の約一ヶ月間は、忙しい毎日が続きます…

毎年5月中旬になると、ブルガリアンローズの蕾が咲き始めて谷一面をピンク色に染め上げます。
ブルガリアの5月は雨が多くダマスクローズはゆっくりと咲くので、
収穫時期の20日~25日間は花を摘んでは精油をつくる大変忙しい毎日になるそうです。
その間、ブルガリアの農家の人々やジプシーの期間労働者の人たちが総出で働き、
観光客も集まってバラの谷はたくさんの人々で賑わうそうです。

本当に品質の良い“ブルガリアンローズ”らしい精油を採るためには、
満開になる直前の花を朝露が残る時間帯に摘み取らないといけません。
摘みごろの花を一つ一つ選んで手折るには人の手がどうしても必要になりますが、
ダマスクローズには花を守るための細かい棘がたくさんついており、
日の出直後のまだ暗い時間から収穫を始めるため、棘で手を傷つけることもあるそうです。

大変な作業ですが、摘み手の人々は歌ったりおしゃべりをしたり、
陽気に花を摘みつづけるそうです。。。
ブルガリア人としてブルガリアンローズの香りを“誇り”として守る彼らの力強さを感じます。

●バラの生花が精油になるまで●

50~100本のバラの花から採れる精油の量は、たったの一滴。人気も相まって、高値で取引されています。

収穫されたブルガリアンローズの花は香りが揮発しにくいようにビニールに覆われ、
バラの谷にいくつもある蒸留所にすばやく運ばれます。そこで品質の検査を行い、
水蒸気蒸留法もしくは溶剤抽出法によってローズオイルがつくられます。

中でも、水蒸気蒸留法で作られる「ローズ・オットー」は3tものバラの花びらから、
僅か約1kgしか抽出することのできないとても貴重なもので、その輸送には護送車がつくほど。

ブルガリアの蒸留所では、ローズ・オットーを最後に取り出す作業は、
ローズ精油を作る一連仕事の中で蒸留所のオーナーもしくは責任者のみが執り行う 特別な仕事と
されているそうです。

●精油をつくる・水蒸気蒸留法とは●

水蒸気蒸留法は伝統的でオーガニックな手法です。

精油の抽出のために使用するのは原料となるブルガリアンローズと水蒸気のみによる蒸留で
植物中の精油を採取する方法で、化学成分を使わないことからスキンケアに精油を使用したり
オーガニックな製法を好む人に水蒸気蒸留法で作られる「ローズ・オットー」が支持されています。

この水蒸気蒸留法が確立したのは13世紀から14世紀と言われており、香水製造のために
蒸留技術が発達していたイスラム文化の中でアラビア人が考案したと考えられています。

現在も精油の80%はこの水蒸気蒸留法によってつくられているそうで、
この製法で作られるダマスクローズの精油だけが「ローズ・オットー」と呼ばれます。

蒸留のためには摘み立てのバラの花は蒸留釜に入れられて蒸され、
すると揮発性の精油成分などが水蒸気に溶け出します。
その水蒸気は冷却層冷やされて精油と水に分離し、
そこから取り出された精油がローズ・オットー、水がローズ・ウォーターになります。

この蒸留に使われる釜は、ステンレス製の超大型の釜が導入される一方で、
今でも銅製の釜は抗菌力がある上に釜の中にムラなく熱を伝えることで
高品質な蒸留ができるとして多くの蒸留所で昔ながらの銅製の蒸留釜が稼動しています。
また、蒸留後のバラの花は有機肥料として再利用することができます。

ローズ・ウォーターにはこのようにローズオイルを採取する時に副次的にできるものですが、
そこにはブルガリアンローズの水溶性成分が多く溶け込み、芳醇なバラの香りが宿っています。
ローズ・ウォーターも需要が高い製品ですので、精油の副産物としてだけでなく、
ローズ・ウォーターそれだけを作るためだけの蒸留も行われるそうです。

●精油をつくる・溶剤抽出法とは●

溶剤抽出法は花の香り成分をより多く取り出します。。

溶剤抽出法によってつくられるローズオイルは「ローズ・アブソリュート」と呼ばれ、
水蒸気蒸留法では抽出できない分子量の大きい成分や熱に弱い成分を含んでいることから、
より生花の香りに近くなると言われ、その甘く鮮やかな香りに魅了される人も多いそうです。

ちなみに、アブソリュートを精油(エッセンシャルオイル)と呼ぶこともありますが、
アブソリュートは溶剤によって揮発性しない成分が含まれるため、
厳密には植物由来の揮発性の油と定義される精油とは区別されます。
古くはアブソリュートをつくるローズはケンティフォリア種・キャベッジローズに
ほぼ限られていたのですが、現在はダマスクローズで作るアブソリュートもあるそうです。

クレオパトラがバラの香りを楽しんだ時は精油を作る技術は存在しておらず、
植物油やワインなどにバラを漬け込んで香りを保存していましたが、
やがて蒸留技術が生まれて発達し、さらに20世紀近くなって溶剤抽出法が始まったそうです。

採油量が少なく高価になるローズ・オットーと比べて、
ローズ・アブソリュートは採油率が3倍ほど多く値段も抑えられます。
そのため、ブルガリアではブルガリアンローズ精油を生産する一方で、
ローズ・アブソリュートの生産も現在まで長く続けられ、
その間により安全性と純度の高いアブソリュートを作る技術も発達させてきました。

抽出する手順としては、まずローズの花を揮発性の高い溶剤(ヘキサンなど)に浸し、
香気成分を遊離させます。次にヘキサンを揮発させると、香気成分と天然のワックス成分とで
半固体になった“コンクリート”と呼ばれるものが得られます。
そしてコンクリートをエタノール(エチルアルコール)で溶かして、
香気成分をアルコールにうつした後に冷却してワックス分のみ再び結晶化させて分離します。
最後にアルコールを減圧蒸留で除去するとローズ・アブソリュートの完成です。

●ローズオイルの品質鑑定と出荷まで●

蒸留所で作られたローズ精油やローズ・ウォーターはクンクマという輸送用の容器に入れられ、
ブルガリア国立バラ研究所(State Laboratory Bulgaska Rosa Ltd)で検査ののち
合格したものだけが『ブルガリアンローズオイル』として認証を受けます。

ブルガリア国立バラ研究所とは、世界一と言われる『ブルガリアンローズオイル』の
ブランドを守るために、品質のチェックと香りの研究を行っている施設です。
ブルガリア一の鼻を持つ男と言われる研究所所長のニコライ・ネノフ氏が、
国家基準を満たしているとされたものにだけ、サインとスタンプ(1928年から
同じものを使っているそうです!)を押すのだそうです。

あとは輸出するのみですが、ブルガリアンローズは出来立てよりも
寝かせたほうが植物独特の青々しさがまろやかになり深みのある香りになるそうです。
そのため、精油になってから60日ほど待ってから出荷を行うそうです。
出荷する際も、ブルガリアンローズオイルはプラチナよりも貴重なものとして丁重に取り扱われます。

ちなみに、純正のブルガリアンローズ精油は基本的に腐ることがなく、
適切に管理されていれば100年以上も香りを保つことができるそうです。
2500年前もから人々を虜にした魅力だけでなく、100年色褪せない香りを持つ点でも、
「香りの宝石」と呼ばれるのにふさわしい精油なのだと思います。